ごあいさつ
10年ほど前、日本でのペリネイタル・ロスのケアは、欧米に比べて30年遅れていると言われておりました。赤ちゃんを亡くされたご両親やご家族は大きなグリーフを抱えた辛い状況の中、病院においても地域においても、適切なサポートを受けることができていませんでした。2003年、私はひとつのセルフヘルプグループを訪れ、スタッフとして活動するようになりました。そこで、多くのお母様のお話を伺いながら、私たち看護者の提供しているケアと、体験者の皆様が求めているケアとの間にズレがあることを痛感しました。
本研究会は、日本のペリネイタル・ロスのケアが、体験者の皆様のニーズに沿ったものとなることを目指して、体験者の皆様の生の声に耳を傾け、寄り添い共に歩むことをモットーに、助産学、看護学、心理学などの側面から探求しています。
2005年の研究会創設以来、体験者の語りから体験者の皆様の状況やケア・ニーズを明らかにする研究、看護者のケア上の困難を明らかにする研究などに着手しました。そしてそれらを元に、ケアに必要な冊子やキットの開発、医療者向けの教育プログラムの開発、そしてそれらを評価する研究などを行いました。また、研究会メンバーも個々にテーマを持ち、さまざまな側面からペリネイタル・ロスについて研究しています。これらの研究は着実に成果を上げ、現在、実践活動に活かされつつあります。
これからも研究会では、グリーフケアの実践活動を通した体験者への支援、研修プログラムなどの医療者への教育活動、研究成果の公表による情報の発信を、継続して行なっていきます。
ペリネイタル・ロスの研究経験のある方、臨床家、そして体験者の皆様と共に、今後、少しずつ研究会を発展させていけたらと願っています。
代表 太田 尚子
ペリネイタル・ロス研究会に寄せて
2004年9月聖路加看護大学看護実践開発研究センターにおいて第1回目の「天使の保護者ルカの会」が始まりました。当時、大学院生であった太田尚子さんと、「お空の天使パパ&ママの会」(WAIS)関東支部の石井慶子さん、看護学生の宮本なぎささんと堀内とでスタートしました。パンフレットには「流産、死産をはじめ、新生児期にあらゆる理由でお子さまを亡くされた方の精神的ケアを、同じ体験をした者同士の相互の関わり合いの中で行っていこうとするセルフヘルプグループです。」と記載されていました。
子どものことを心おきなく話せる場所、亡くなった悲しみや人間関係の辛さを語り分かち合う場所を提供したいと願いました。2012年春までの8年間に600人以上の方が集いました。硬い表情で参加していたお母様も、時間経過とともに柔らかな表情となり、子どもへのプレゼントのキルト制作に取り組まれる様子を見ていると、人間の回復力や成長に感動することが多くありました。
しかし、無理解で配慮のないケア、負担を強いられた経験を聞き知ることはとても残念なことでした。体験者が望んでいるケアをもっと普及させたい、現状をよりよく改善したいという思いを強くもちました。この「天使の保護者ルカの会」の活動を発端にして、多くの看護学や心理学の大学院生が学位論文を完成させていきました。今後、より多くの人々に周産期喪失の教育、研究活動に参画していただきたいと願いペリネイタル・ロス研究会の創設に至りました。
この8年間を振り返っても、ケアは格段に改善され、教科書にも章を持つように研究が盛んになってきました。周産期喪失を経験した母親の研究、父親の研究、亡くなったこどもとの絆・家族の研究、そして医療者の困難、医療者への有効な教育プログラム、社会学的な視点から見た支援、心理学的アプローチなど、研究領域はますます広がりを持ってくることでしょう。
周産期喪失に関心を寄せる研究者・教育者が集まって、学術的に、実践的に、哲学的に語り合い、智恵を出し合う広場になることを心より願います。
顧問 堀内 成子